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Dis- cicto pricear

夕良の命日に合わせて再投下。

(12/12 命日間違ってたようなので公開日を修正……orz)

-----------------------


 雪なんて滅多に降らないのに、その日は夜中から降り続く雪で、外はすっかり白くなった。
 季節外れな程の寒さで目覚めた朝。窓の外を見て、昼になれば溶けるだろうと思いながら眠い目を擦り、笛吹は日めくりカレンダーを一枚破いた。
「…………」
 そこには、忘れることなど決してできない日付。
 一年前、雪のように真っ白だった彼が真っ赤に溶け、二度と白を取り戻すことの無かった、あの日付だった。

 兄が自分を思い出してほしくて降らせているような雪だ。
 例え今日の降雪が偶然だったとしても、笛吹はただ雪の白に兄の面影を追った。
 昼には雨に変わった雪が再び外を白く染め始める頃、その日の仕事を終えた笛吹は夕良の部屋に向かった。

 夕良が死んでしまって以来、そこに新しく入居する者がまだ現れないため、部屋は夕良がいた頃そのままにされていた。
 ここに来る度思い出されるのは、夕良と共に過ごした時間の数々。
 激しい性格の夕良に、根は気弱で泣き虫な笛吹が相手をするのは、決して楽ではなかった。日々衰弱していく夕良の世話も、体格差のせいもあり重労働だった。
 けれど過ぎ去ってみると、それすらもかけがえのない大事な時間だったと思えた。辛い思い出をかき消すように、楽しかった思い出ばかりが浮かんで、失ったものの大きさに涙した。
 笛吹は泣きながら、思い出を辿るように部屋を歩き回る。

 一緒に写った写真が収まる写真立て。二人とも写されるのが苦手で硬い表情をしている。風景写真や絵画のポストカードが飾られていることのほうが多かったが、最後にはたまたまこの写真が選ばれていた。

 夕良が気に入っていつの間にか買ってきていた、古代生物のオブジェ。
 鳥の翼の形をした振り子が左右についていて、羽ばたいているように見える時計。もう、電池が切れて羽ばたかなくなっていた。

 それは決して触るなと言われていたものだったが、動かない時計に何となく寂しくなって、笛吹は電池を交換しようとした。
 電池の蓋を探しあちこちいじっていると、別の蓋が開く。
「え……鍵……?」
 その時計には、鍵を入れて隠しておく部分があった。そもそも本当にその使い方で合っているかどうかは定かではないが、少なくとも夕良はその中にいくつか取り付けられた鉤状の金属に鍵を引っ掛け、隠していた。
 そして何故か、小さな巾着も引っ掛けてあった。中には巾着に合わせて小さく折り畳まれたメモ用紙が入っていた。
 破らないようそっと開くと、久々に見るやる気の無さそうな殴り書きが走っていた。

 ――笛吹へ ベッドの下。

 自分宛てだったことに驚きながら、笛吹は夕良のベッドに目を向けた。そのベッドの下には、キャスター付きの収納箱が4つ収まっている。
 その中のどれかに、この鍵が合う箱があるのだろうか。笛吹は箱を1つずつ引きずり出し、鍵穴を探した。目当ての箱は、一番最後だった。

 悪戯好きな夕良のこと、巨大なびっくり箱か何かかと恐る恐る箱を開いた笛吹は、目を疑った。何か飛び出してくるわけでもない、普通の箱。
 そこには、色鮮やかな折り鶴が、びっしりと詰まっていた。
「…………?」
 見舞いの千羽鶴でも入れてあるのだろうか? しかし、何故それを我に?
 兄の意図が汲み取れず、ただ呆然と箱にびっしり詰まった折り鶴を見つめる笛吹。
 それにしても、凄い数だった。腰掛けるのに丁度良い高さのベッドの下の4分の1のスペースをカバーする、決して小さくはない箱の半分近くの容積が、千羽鶴用の小さな折り紙で折られた小さな折り鶴で満たされている。
 そして折り鶴の上にも、メモ用紙と鍵が入ったケースが置かれていた。

 ――ベッド脇。

 ベッド脇には、夕良がよく使うものを入れる小箪笥がある。一番上の引き出しには鍵がついていて、笛吹はそれまで中身を見たことが無かった。
 折り鶴の上にあった鍵で、その引き出しを開けた。

 そこには、使いかけの折り紙とペン、そして三角に折られただけの折りかけの鶴があった。
「……まさか……あれは兄が折ったのか? ……全部……?」
 笛吹は驚愕しながら、折りかけの鶴を手に取った。
「…………?」
 三角に折られた隙間から、何か見えた。笛吹は何気なしに、紙を開く。

 ――Pricear.

 そう書いて折られた紙。
 その言葉は、まさか全ての折り鶴に書いてあるのだろうか。全ての紙をそうして折ったのだろうか。
 笛吹は折り鶴の一つを、破らないよう丁寧に崩し、中を見た。
 もう一つ。もう一つ……。
 いくつか開いて、その全てに書いてあった。

 ――Pricear.

 ――Pricear.

 折り紙と一緒に置かれていたペンは、このためだったのだ。
 夕良は一枚一枚に、その言葉を込めて鶴を折った。
 毎日毎日、一度たりとも素直に口に出すことは出来なかった、たった一言を込めて。
 何時しか数千もの折り鶴が、彼の想いを託されていた。

 その言葉の意味は――“ありがとう”。

「……兄……っ」
 夕良の意図を理解した瞬間溢れてきた涙を、堪えることは出来なかった。
 夕良は生前から、これを仕組んでいたのだ。
 鍵を隠した時計を触るなと言い、自分が生きているうちに発見されることは決して無いように。
 けれど自分の死後には、いつか笛吹が時計を触り、この仕掛けを発見するだろうことも見越して。

 何千もの感謝が、雪のように笛吹の心に降り積もっていった。
 兄を救えなかった自分をただ責めるだけだった笛吹には、その言葉が信じ難いと同時に、その言葉に全て救われるような思いがした。
 笛吹が自分をどれだけ責めようと、少なくとも夕良は笛吹を責めなかった。表面上はツンツン文句を言って笛吹の精神を疲弊させるようなことはいくらでもあったが、その裏でこれほどの感謝を秘めていた。
 絶望的な病状の自分を決して見捨てなかった、自分を助けようといつも必死だった笛吹に夕良が本当に伝えたかったのは、このたった一言だったのだ。
 笛吹は折り鶴の山に涙を溢しながら、その場に泣き崩れてしばらく動けなかった。

 もう寝るような時間になってから、笛吹は夕良の墓を訪れた。
 手には、小さな折り鶴。
「兄……あのたくさんの鶴、やっと見つけた。遅くなって済まない」
 そして、墓前に自分が持って来た折り鶴を供えた。
「我も、同じ気持ちを兄に還したい」
 それは、笛吹が夕良と同じように折った折り鶴だった。
 折り目の中に秘められた、たった一言。
 兄と同じように言わずに去った、大切な言葉。

 ――Pricear.

 小さな折り鶴を、雪が隠していく。
 雪のように真っ白だった兄が、弟の想いをそっと包み込むように。
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COMMENT

いいと思います!

| 轟尚紀恵 | 2012/11/22 02:12 | URL | ≫ EDIT

ありがとうございます!

……こんな放置過疎ブログにコメント来るはずないと思って、レスがかなり遅くなってスミマセン(汗)。

| 奏伽 | 2012/12/12 22:22 | URL | ≫ EDIT















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